ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)を導入するメリットとデメリット・問題点

ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)を導入するメリットとデメリット・問題点

ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)とは、農地の上に太陽光パネルを設置し、営農を続けながら太陽光発電を行う設備のことです。

農業の収益以外に売電収入が得られたり、発電した電気を農業に使って光熱費を削減できたりすることから、生産者の収益アップや荒廃農地・耕作放棄地の再生に役立つと普及が進んでいます。

この記事では、ソーラーシェアリングのメリット・デメリット、具体的な進め方を詳しく解説していきます。

ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)とは

ソーラーシェアリングとも呼ばれる「営農型太陽光発電」とは、水田や畑、果樹園などで農業を営みながら太陽光発電を行うことを意味します。約3.5mの高さに発電設備を設置し、農業を行いながら売電収入を期待できる新しい発電方法として注目されている太陽光発電です。

田畑の上部に支柱を設置した後に隙間をあけて太陽光パネルを配置するため、今まで通り果物や農作物を栽培いただけます。農作物を育てる際に必要な日射量をしっかりと確保しながら発電が可能で、作物収入だけではなく売電による収入が増えることが期待できます。

また、発電した電力を自家利用すると電気代を抑えることができ、蓄電池と併用すると災害が起きた際の予備電力としても活用することができます!

野立て太陽光発電との違い

農地転用型太陽光発電とも呼ばれる「野立て太陽光発電」とは、農地転用した後に発電設備を設置するため、農業を継続する必要はありません。

営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)のように3年ごとの許可申請が不要で、休耕地を大規模なソーラー発電として活用いただけます。

農家や地主の方が「農業をやめたい」と考えて土地の有効活用について検討する際に役立つ方法で、使っていない土地に発電システムを導入することで売電収入を得ることが可能となります

導入する前に農地転用できる土地なのかを確認し、対象の場合は管轄の農業委員会へ農地転用の申請を行ってください!

ソーラーシェアリングの普及率

令和3年度までの営農型発電設備への農地転用実績は、全国で合計4,349件、下部農地の面積は1,007.4haです。

平成25年度の新規許可された農地は102件でしたが、令和3年度には851件が新規許可されており、ソーラーシェアリングの普及は進んでいます。

ただし、日本の農地面積は432万5千haであることを考えると、普及率が高いとは言えないかもしれません。

参考:農林水産省 営農型太陽光発電について 令和5年10月

営農型太陽光発電の問題点・デメリット

営農型太陽光発電は作物収入と売電収入を得られるお得な発電方式に見えますが、抱える問題点も多く、その問題の解消が課題となっています。

ここでは営農型太陽光発電が抱える問題点やデメリットを3点ご紹介いたします。

①農業に加え太陽光発電のノウハウも必要になる

いくら自分の代で農業と売電ノウハウを身につけても、引き継ぐ相手にも「農業」と「ソーラーシェアリング」の知識を持っていないと事業が立ち行きません

まず発電ノウハウとして重要なのは、発電スケジュールやメンテナンス計画、トラブル時の対応などを理解することです。

同時に農業の継続も条件となるため、苗の受付や作物の育て方、収穫方法や販売先などを指導し、農業と発電を両立して適切に事業を営めるように必要なノウハウを伝えてください。もし、農業の知識や経験を持つ人に任せられない場合は、農業に従事するスタッフを雇用するか委託先を見つけないと、発電事業を廃止しなくてはなりません。

日本では全国的に農家の高齢化が進み、次世代へのバトンタッチが難しい状況にあります。

事業主がしっかりと業務手順を伝えて作物収入と売電収入の二本立てで安定した事業を営めることを示すことで、若者が農家に移行する機会は増えると考えられています。

②収益性が取れないことがある

農作物の収入は天候などの影響により品質や収穫量が変わるため、収益が一定ではありません。農業面で失敗してしまい、太陽光発電まで立ち行かなくなる共倒れパターンが多いです

作物集の減少を補填するために売電収入を得られる可能性は大いにありますが、3年ごとに一時転用を許可されないと初期投資のコスト回収すら危ぶまれます。さらに、一時転用の基準が変わらない保証はなく、制度変更に応じて設備投資を行う可能性もあり、収益性が取れない可能性もあります。

また次世代の担い手がいない場合は、農業と発電事業を継続することが難しくなってしまいます。初期投資のコストを回収まで農業を続けられるか、引き継ぐ相手がいるのかを確認してから農業に加えて太陽光発電を始めてください。

③融資が通りにくい

金融機関は融資を行う際に「資金の回収が可能か」を重視するため、農地転用を3年ごとの更新制であるソーラーシェアリングは、廃業リスクが高いことから融資が通りにくいと言われています。

固定買取制度で20年の安定収益が見込まれる従来のオーナーとは異なり、3年後に更新されない可能性もあるため金融機関から資金回収を難しいと判断されやすいです。

また一般的な発電システムよりも設備投資が割高になりやすく、農業との兼業のため太陽光パネルを多く設置できないため「利回りが低い」ことも融資が下りにくい理由です。

架台などの資材費用が掛かり、設置までの手間が発生するため、初期投資のコストは15年未満で返済できるような事業計画を立てると融資に通りやすくなります

営農型太陽光発電の6つのメリット

農地を一部転用して営業型太陽光発電を導入する魅力を3つの観点で紹介します。

①農業以外の収入が確保できる

営農型太陽光発電では今まで通り作物を育てた収入はもちろんのこと、太陽光発電による売電収入を見込めるため、農家の収益アップが期待できます。

また、教員や会社員などの兼業農家が売電収入によって経済的に安定し、専業農家へとステップアップすることで、作物の品質向上に繋がり作物収入の収益増加が期待できるでしょう。

年金収入を中心とした高齢者が営む農地にソーラーシェアリングを活用すると、売電収入という新たな収益ルートを確保できます。

②電力の自家消費で光熱費削減

太陽光発電で得られた電力はビニールハウスなどでの自家消費が可能で、農業に使用する電気代が安くなります

揚水ポンプや空調設備などで多くの電力を消費しますので、光熱費のコスト削減は農業経営の負担を減らすことができます。

経費削減だけでなく、クリーンなエネルギーを使用しているという付加価値もつき、企業や作物のPRに利用することも可能です。

③農業の作業効率化や作物の品質向上に繋がる

ソーラーシェアリングで鼻ニーつハウスの電力を賄う

出典:ソーラーシェアリング協会

太陽光を集めるためにパネルを設置するため夏場に農作業を行う際に日影ができ、作業を行いやすくなります。

発電システムを導入することで適度に日射量を遮ることが可能となり、適切な湿度を保ちやすくなるため微生物が活性化します。そのため、作物の成長を促進する「良い土」となり、農作物にとって育ちやすい環境となります

④荒廃農地・耕作放棄地を再生利用できる

荒廃農地・耕作放棄地に企業が出資してソーラーシェアリングを導入することで、農業と太陽光発電による収入を生み出す農地に再生している事例もあります。

日本では、農業従事者の高齢化や労働力不足によって、荒廃農地・耕作放棄地が増加しています。

令和2年度の荒廃農地面積は全国で約28.2万haにのぼっており、このうち再生利用が可能な荒廃農地は約9.0万haです。(参考:農林水産省 令和2年の荒廃農地面積について)

天候に左右されやすい農業に安定した売電収入を得られるようになれば、同じ農地でも収入が増える可能性が高くなります。荒廃農地・耕作放棄地を再生して発電システムを導入することで、収益が増し若者が農業就労する機会に繋がるため、地域活性化を促進できるでしょう。

⑤農地転用ができない土地でも太陽光発電を導入できる

日本では完全に転用できる条件の農地は少ないため、農地転用の許可を得られないために太陽光発電を断念している農家が多いです。

そういった土地でもソーラーシェアリングの場合は、一時転用の許可が出る可能性があり、今まで導入が難しかった農地でも一時転用という方法で発電事業を開始できます

所有している農地を無理なく活用できるため、土地を買収する予算が掛からず、低コストで太陽光発電を導入できるでしょう。

⑥土地の固定資産税を抑えられる

農地として一時転用しながら太陽光発電を行えるソーラーシェアリングは、固定資産税が大幅に安く済みます。登記簿謄本で登録されている地目が対象とは限らず、今の使用状況に基づいた「現況の地目」で課税額が決まります。

完全に農地転用するのではなく「支柱部分だけ」を一部転用として課税計算されるため、一般的な宅地などで課税されるよりも割安になります。事業者としては固定出費が安く抑えられる利便性は高く、土地の一部だけを農地転用として課税されるのは魅力的です。

農地転用すると固定資産税が農地の時と比べて割高となり、せっかく収益が増えても支払わなくてはいけない税金の支出が増えてしまいます。そこで、農地の一部だけ転用すると割高となる土地が一部となるため、それほど税金の支出を増やさずに発電事業を営めます。

ソーラーシェアリングの始め方

ソーラーシェアリングを導入するまでの一般的な流れについて解説します。

①初期検討段階

まずは、営農型太陽光発電について理解し、具体的に考えていきましょう。営農・発電を長期継続できる体制づくりや、栽培品目の検討を行ってください。

同時に、電力系統に接続できるか確認が必要です。地域の送配電事業者(電力会社)に相談してください。

農林水産省の補助事業として、「全国ご当地エネルギー協会」に相談窓口が設置されています。無料で専門家に相談することができるので、電話・WEBで連絡してみてください。

公式サイト:全国ご当地エネルギー協会
電話番号:03-3355-2212

また、各地方の農政局に再生可能エネルギーの担当窓口もあります。

窓口担当部署 所在地・電話番号 担当する都道府県
 北海道農政事務所
 生産経営産業部 事業支援課
 〒064-8518 札幌市中央区南22条西6丁目2-22
 エムズ南22条第2,3ビル 011-330-8810
 北海道
 東北農政局
 経営・事業支援部 食品企業課
 〒980-0014 宮城県仙台市青葉区本町3丁目3番1号
 仙台合同庁舎 022-221-6146
 青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、
 福島県
 関東農政局
 経営・事業支援部 食品企業課
 〒330-9722 埼玉県さいたま市中央区新都心2-1
 さいたま新都心合同庁舎2号館 048-740-0427
 茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、
 東京都、神奈川県、山梨県、長野県、静岡県
 北陸農政局
 経営・事業支援部 食品企業課
 〒920-8566 石川県金沢市広坂2丁目2番60号
 金沢広坂合同庁舎 076-232-4149
 新潟県、富山県、石川県、福井県
 東海農政局
 経営・事業支援部 食品企業課
 〒460-8516 愛知県名古屋市中区三の丸1丁目2番
 2号農林総合庁舎1号館 052-746-6430
 岐阜県、愛知県、三重県
 近畿農政局
 経営・事業支援部 食品企業課
 〒602-8054 京都府京都市上京区西洞院通下長者
 町下ル丁子風呂町 075-414-9024
 滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、
 和歌山県
 中国四国農政局
 経営・事業支援部 食品企業課
 〒700-8532 岡山県岡山市北区下石井1丁目4番1号
 岡山第2合同庁舎 086-222-1358
 鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、
 徳島県、香川県、愛媛県、高知県
 九州農政局
 経営・事業支援部 食品企業課
 〒860-8527 熊本県熊本市西区春日2丁目10番1号
 熊本地方合同庁舎 096-300-6330
 福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、
 宮崎県、鹿児島県
 沖縄総合事務局
 農林水産部 食料産業課
 〒900-0006 沖縄県那覇市おもろまち2丁目1番1号
 那覇第2地方合同庁舎2号館 098-866-1673
 沖縄県

引用:農林水産省 再生可能エネルギーの導入促進

②計画策定

営農計画の策定を行います。土地の利用状況や測量等現地調査を実施し、それに基づく太陽光発電システムの設計や見積もりを取得してください。

営農に支障がないように、パネルの大きさや設置方法を設計することが重要です。発電設備施工業者と相談するようにしましょう。

見積もりが取れれば、収益確保できるか・長期運営できるか・初期投資をどれくらいで回収できるかが見えてきます。

③各種申請

設置が決まったら、次のような申請が必要です。

  • 電力会社へ接続契約等申込
  • 経済産業省へFIT事業計画認定申請
  • 農業委員会へ農地一時転用申請

発電設備を電線毛に接続するための工事費を支払う必要があるので、電力会社に接続契約等申込を行う際、概算費用の見積もりを依頼してください。

一時転用の手続きは都道府県知事や農林水産大臣、農業委員会などの該当する申請先に申請書類を提出します。主に以下の条件を満たすと、許可される可能性が高いです。

  • パネル下部のエリアで農業を営める
  • パネルを設置しても農業に必要な日照量を確保できる
  • 支柱を設置しても農業機械の活用に問題ない
  • 支柱の面積が必要最小限である
  • 設備導入によって周辺農地へ影響を及ぼさない
  • 1年間に育てた農作物の種類や収穫量を報告する

④工事

経済産業省から事業計画認定を受けたら、太陽光発電設備施工業者と契約をし、工事開始です。

電力会社へ工事費負担金支払を行うと、系統設備への連係工事がされます。

⑤事業開始

太陽光発電システムの設置ができたら、電力供給と営農が開始となります。

農作業はもちろん、太陽光発電設備の定期的なメンテナンスも必要です。

長期的に安定した運営のために、農地転用許可権者への年次報告を含めた、地域住民とのコミュニケーションも行っていきましょう。

なお、3年ことに更新申請を行うことで一時転用の許可を継続いただけます。農地として使用しないと罰則対象となるため、農地以外での活用を続ける場合は更新申請を忘れないでください

(引用:農林水産省営農型太陽光発電取組支援ガイドブック

まとめ

天気や災害によって作物収入の変動は激しく、農家の収益を安定させるのは難しいと言われています。恒久的に農地転用する「野立て太陽光発電」の許可が下りない土地でも、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)は導入いただける場合が多いです。

作物収入と売電収入を受けられるため安定した事業経営が期待でき、一部だけ農地転用している関係で固定資産税を従来よりも安く抑えられます。今後とも農家の収入増加に繋がる発電システムとして普及が期待されます。

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